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スマートフォン子守りの問題点

今回は、小児科診療 Up-to-date ラジオNIKKEI放送内容集から

吉村小児科院長 内海裕美先生による

スマートフォン子守の問題点“を引用させていただきました。2回に分けてお送りします。

子育ての参考にしていただければ幸いです。

 

スマートフォン子守の問題点

はじめに

日本小児科学医会では2003年に“子どもとメディア”対策委員会を立ち上げて活動しています。私は当時からこの委員会の担当理事をしており、2020年からは厚生労働省が立ち上げたゲーム依存症対策関係者連絡会議にも第1回より参加しています。本稿では乳幼児の子育てとメディア環境についてお話させていただきます。

 

電子機器が子供に及ぼす影響

 私たちの周囲には、テレビ、パソコン、スマートフォン(以下スマホ)などの電子映像メディアがあふれています。テレビが普及した頃から、すでに子供の生活は大人も含めて大きく変化しています。そして、テレビやビデオを長時間見ることは、運動不足、生活習慣病と関連することも解っています。さらにその内容についても大きな影響があることから、それなりの規制がかけられて現在に至っています。

 20年ほど前から米国小児科学会は、乳幼児にテレビやビデオを長時間視聴させることを電子ベビーシッターと呼び、注意を呼びかけました。日本小児科学会も乳児期のテレビやビデオの長時間視聴は1歳半時点での言葉の遅れが出るという調査結果を示し、長時間視聴の危険性を訴えました。日本小児科医会も、メディア漬けの子育てに警鐘を鳴らし、啓発を続けています。

 現在普及しているスマホやタブレット端末は、リビングに置いてある固定型のテレビやビデオと異なり、使用する時間と場所を選ばず、いつでもどこでも使いたいだけ使えると言う側面があり、使用時間も長時間化してしまいます。内容の規制は皆無と言っていいでしょう。確かに便利で生活の1部なっていますが、心と体が著しく成長、発達していく赤ちゃんや子供にとって注意していただきたいことがあるのでご説明したいと思います。

 

1 愛着形成に与える影響

 赤ちゃんは、お腹が空いた、暑い・寒い、オムツが濡れたなど不快なことがあると、泣くことで周囲の大人に知らせます。赤ちゃんを育てている人は、それに“応答的に”

“適切に“応じてあげることを毎日数えきれないほど繰り返しています。赤ちゃんは”あら、どうしたの“と声をかけられ、優しい顔が近づいてきて抱っこしてもらったり、おっぱいを飲ませてもらったり、オムツを変えてもらうことで、”不快“を”快“に変えて欲求を満たしてもらっているのです。この一連のやり取りの中で、赤ちゃんは視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚といった5感、さらには前庭感覚・固有感覚(自分の位置がどのようになっているか、自分の腕や足がどの位置にあるのかを知るための感覚)を総動員して養育者と関係しています。

この関係が続く日常生活の中で、いつも世話をしてくれる人に対して、赤ちゃんは愛着行動をより多くし、養育者を信頼し、その人を安全基地として、困った時はこの人に頼ればよいのだという感覚を育んでいきます。そして、情動調律ということがおこり、これが自分の気持ちをコントロールする基礎になっていくと言われています。こうした愛着形成がうまくいかなかった場合、その後の人間関係に大きなマイナスの影響が出てくることも解っています。

 赤ちゃん向けの“泣き止ませアプリ”や“寝かしつけアプリ”、“しつけアプリ”、“知育アプリ”を電子おしゃぶりと呼びますが、それらも多く出回っています。しかし、赤ちゃんや小さな子どもは、スマホやタブレットの画面を見たくて泣いているわけではありません。ところが、子どもを泣き止ませるために、あるいは気持ちを紛らわせるために、すぐに写真や動画を見せていると、親があやしても泣き止まずに、困ったことになる事例が出てきています。“スマホに子守りをさせない”といったアドバイスと同時に子育ての労をねぎらい、あやし方や関わり方、遊ばせ方などの情報提供をすることなども乳児健診の重要な仕事と言えましょう。地域の子育て支援の資源を提供してあげてほしいと思います。

 

2 子どもの目の発達への影響

 赤ちゃんは成長とともに2つのみる機能(視力・両眼視)が発達します。これらの機能は6か月くらいまでに急速に発達し、8歳ごろまでに穏やかに発達します。視力は新生児期で0.02-0.03、6か月時では0.1-0.3、2歳児で0.5、3歳児で1.0が基準です。

 ところが、毎年発表される学校保健統計によれば、近視の増加とともに近視の低学年化も進み、裸眼視力1.0以下の割合は小学校で3人に1人、中学校で2人に1人、高校生で3人に2人となっています。

 0.7以下になると教室の後ろ半分の席では、黒板に字がきちんと見えないと言われていますが、これも増えています。そして、放置しておくと失明の危険さえある強度近視の状態の子どもの割合も増えているのです。近視は近くのものばかり見ていると悪化します。スマホやタブレット端末の画面は、テレビと比較にならないほど近くで見るので近視を進めることになります。近くで狭い画面を見ることで後天性の内斜視の報告例も出ています。目の発達にも、こうした電子機器を使用するときの時間制限は欠かせません。使い方にも画面からの距離や姿勢、見る環境には注意が必要でしょう。近視の低年齢化が始まっていることを考えると、乳幼児期の過ごさせ方が大変重要だと言うことがわかると思います。屋外の光を1日2時間以上浴びることが近視の抑制に効果があることも分かっています。こうした時間を確保するためにも、スマホなどの電子機器から離れて過ごす重要性がご理解いただけると思います。