痰が絡み、長く続く咳で受診される患者さんは多く、風邪による咳(乾燥した咳)で来院される患者さんより多いと感じています。
痰が絡む咳は2-3週間続き、夜間に多く、睡眠の妨げとなります。運動したとき、騒いだとき、笑ったときにも咳が出ます。
1-2回の単発の咳を含めると、1年中、咳が出ていると言っても言い過ぎではない患者さんも見えます。
また、咳は季節性があり、毎年同じような季節になると、咳が集中して出ます。特に春、秋の気温の変化が大きい季節に咳が出ることが多いようです。
気温の急激な低下が気管支を刺激して、咳を誘発していると考えていますが、気圧の変化であったり、雨が降ったりなど天候も関わっている可能性があります。
個人によりおそらく咳の誘因は異なっています。この種の咳は、多くの場合熱はありません。
しかし、風邪が引き金になって、その後痰の絡む、長い咳に移行することはよく見られます。
いわゆる“風邪”は細菌か、ウイルスの感染による上気道(鼻腔、咽頭、喉頭をさします)の炎症で、気管支や肺(下気道と言います)まで炎症は及びません。従って痰が伴う咳は出ません。
しかし、風邪がひどくなって気管支炎を起こし、痰を伴う咳になることはあります。
痰を伴う咳は、“気管支炎”が原因で起こっている咳と言うことになります。
一方、気管支の過敏性から来る咳や気管支喘息は、アレルギー疾患に分類されます。
アレルギーというと、スギ花粉症や食物アレルギーがよく知られているため、スギや卵、牛乳、小麦など単一のアレルゲン(アレルギーの原因物質)を考えがちですが、気管支の過敏性の原因はそうではありません。
小児には少ないのですが、成人にアスピリン喘息があります。鎮痛解熱剤のアスピリンを服用すると喘息発作が出ます。
しかし、小児にはこのような単一のアレルゲンで症状を引き起こすこと少なく、むしろ、ハウスダスト(家のほこり)、ダニ、犬猫のフケ、イネ科の植物など多くの種類のアレルゲンが血液検査で高値を示す傾向があります。
気管支の過敏性から来る痰を伴う咳について、述べましたが、この種の咳は遺伝傾向がかなりはっきりしています。
受診された患者さんが、痰の絡む咳が出ていると、家族歴を聞くことにしています。多くの場合、その子の兄弟、姉妹に痰が伴う咳が多い子がいたり、また、両親のどちらかが咳が多かったり、咳が長い既往があったりします。
時には従兄に喘息の子がいることもあります。祖父母に喘息とか、咳が多い方がいることもあります。
ときに、痰が伴う咳が出るとか、咳の頻度が多い方は近親者に1人もいないと言われることもありますが、次の受診時に、身内の誰誰が、咳が多い、咳が長い人であったとの情報を提供していただきます。
痰が伴う咳を気管支の咳と風邪による乾燥した咳をはっきり区別して認識することは案外難しく、たとえ頻回に咳が出ても、痰が伴う咳が長く続いても、風邪が長引いていると判断されていることが多いと思われます。
最後に気管支の過敏性から来る咳の予後(今後の経過)ですが、多くの患児は気管支の過敏性が年齢とともに低下し、気管支が強くなり、咳の頻度も減少するようです。
小児期の喘息は70%なおるとのデーターもあります。しかし、気管支の質は成人になっても続くことが多く、何かと咳が多かったり、長かったりする傾向はずっと続くようです。
ある意味では、気管支の弱い子の先輩に当たる両親やいとこの方が、その子の将来像を示していると言ってもいいかもしれません。